オフショア開発とは、企業が自国以外の国でソフトウェア開発やITサービスを行うことです。コスト削減や高度な技術を求めて行われ、インドや中国、フィリピンなどが代表的な開発先です。利点としてコスト効果や専門性の活用があり、課題としてはコミュニケーションの難しさや品質管理の問題があります。
日本企業はこれまで主に中国にアウトソースしてきましたが、近年は中国国内の人件費が高騰しており、新規オフショア開発の委託先は、ベトナムやインド、ミャンマーなどの国々に移りつつあります。
最近では、日本国内のITエンジニア不足を背景に、開発リソースを確保する目的でも活用が進んでいます。その場合は、コスト削減だけではなく、技術力や開発体制など総合的な観点で、最適なリソースをグローバルに確保する「グローバルソーシング」の意味合いも強まっています。
オフショア開発と言っても、単に開発を委託している会社が海外にあるという認識で、開発を委託される会社も少なくありません。それだけ最近では、ハードルが低くなっています。
特にコロナウイルスの流行以降、IT開発の領域に限らず、ビジネス全体でリモート体制への移行が急速に進みました。そのため、海外の開発現場とリモート体制で開発プロジェクトを進めるオフショア開発への抵抗感が薄れたという社会的背景もあります。
オフショア開発では、日本国内拠点と海外開発拠点とをうまく連携させ、開発プロジェクトを進めることが重要です。そのため、言語や文化、商習慣といった面で円滑な意思疎通をするために、「ブリッジエンジニア(ブリッジSE)」というエンジニアが、コミュニケーターやプロジェクトの管理・調整などを務めるケースが多いです。
「オフショア開発」に似た用語として、「ニアショア開発(nearshore development)」という考えもあります。こちらは日本国内において、人件費や物価が安く抑えられる地域の開発企業にIT開発業務をアウトソースすることです。
オフショア開発の目的は?
オフショア開発の目的は、大きく分けて2つあります。1つは「コスト削減」、もう1つが「開発リソースの確保」です。
オフショア開発を検討した理由(2023)
* 出典:「オフショア開発白書(2023年版)
2021年、2022年のアンケート結果では、コロナウイルスの影響による景気の低迷、コスト意識の高まりなどから、いずれもコスト削減がトップの回答でした。しかし、昨今の深刻なIT人材不足から2023年の結果は「開発リソースの確保」がトップの回答となりました。
開発リソースの確保
昨今のオフショア開発は、グローバルソーシングとしての意味合いがより大きくなっています。その背景として、国内の労働人口減少に伴い、IT人材の確保が大きな課題となっていることが挙げられます。特に国内の優秀なエンジニアはその希少性から単価も高騰していたり、複数のプロジェクトを兼務していることから疲弊してしまっているケースが非常に多いようです。
一方、オフショア開発先となる国においてはIT産業の成長が著しく、優秀なITエンジニアが非常に豊富になっています。成長著しいベトナムを中心に、AIやIoT、クラウド、ブロックチェーンなどの先端テクノロジーを活用した開発実績も増えており、技術力の面での懸念も払拭されてきました。つまり、プロジェクトベースで柔軟に必要リソースを供給できる体制が組めるオフショア開発企業が一般化してきたといえるでしょう。こうした背景から、ITリソース不足の問題に対して、グローバルに最適なリソースを確保して対応する企業が急増しているのだと思います。
出典:経済産業省「IT人材の最新動向と将来推計に関する調査結果」
経済産業省によると、2023年現時点ですでに20万人ものIT人材が不足しているという推計(*1)ですが、悲観的な見方だと2030年にはIT人材が約79万人足りなくなるといわれています(2030年問題)。国内のリソースだけでIT開発を完結させることは現実的ではない数字です。「グローバル人材の活用には少なからず経験やノウハウが必要」と考える企業を中心に、スモールでオフショア開発の導入が広まっています。これからはより普及期・拡大期に入ってくるでしょう。
*1 参考:「IT人材を確保するためには?!IT人材不足の現状と今後の見込みも解説」
コスト削減
長らくオフショア開発の主たる目的は「コスト削減」でしたが、「開発リソースの確保」がトップの回答となりました。国内の人材不足が多くの企業で課題になっていることが伺える結果ともいえるでしょう。人材不足に伴い、「開発スピード」に課題がある、という回答も3番手につけています。
システム開発費用はエンジニアの人件費に拠るところが非常に大きいです。そのため、高騰する日本人エンジニアではなく、賃金が安い海外のエンジニアを活用することで人件費を抑えて、コスト削減を実現することができます。下記のデータを見ると、国内の開発ベンダに対して、価格を最大の課題として考えている発注企業が非常に多いことが伺えます。
国内開発企業に感じる課題(2023)
* 出典:「オフショア開発白書(2023年版)」
国内企業に目を向けると、課題は「価格」「リソース調達」「開発スピード」に集中しています。これらの課題は「国内のIT人材不足」に起因するところが大きいでしょう。人材が不足していることで、単価が高騰し、リソース調達も困難に…さらには開発スピードが上がらない、といった問題に繋がっています。
オフショア開発の委託先国別ランキング
どういった企業がオフショア開発に取り組んでいるかわかったところで、続いては 「オフショア開発先の人気国ランキング」を見ていきましょう。2023年の委託先ランキン グは、次のような結果となりました。
* 出典:「オフショア開発白書(2023年版)」
依然としてベトナムに人気が集中!
本年度もベトナムが一番人気という結果でした。「指定なし」を除いて、約半数近くの企業がオフショア先としてベトナムを希望しています。もちろん、指定なしの中でも、検討の結果ベトナムが選ばれる可能性は高く、依然として新規オフショア開発案件はベトナムを中心に発注されている状況であることは確かです。その背景として、親日であること、勤勉な国民性、地理的近さ、そして安価な水準の単価が挙げられてきました。
オフショア開発のメリット
オフショア開発のメリットを3つの観点から解説します。
- コスト削減
- グローバルリソースの活用
- 技術力や開発体制の強化
コスト削減
日本国内のエンジニアの人件費は高騰しており、自社開発ではコストを抑えづらいという課題があります。しかし、オフショア開発では、海外のエンジニアの人件費が安いため、コスト削減を実現することができます。実際に、オフショア開発を導入した企業の多くが、コスト削減を実現しています。例えば、ある大手SIerは、ベトナムの開発会社にオフショア開発を委託することで、開発コストを約30%削減することに成功しました。
グローバルリソースの活用
海外の開発会社と連携することで、グローバル市場への進出や、海外の顧客への対応を実現することができます。例えば、ある中小企業は、インドの開発会社にオフショア開発を委託することで、グローバル市場への進出を果たしました。また、ある大手企業は、海外の顧客への対応を強化するために、オフショア開発を活用しています。
技術力や開発体制の強化
海外の開発会社では、日本国内の開発会社にはない技術やノウハウを有している場合が多くあります。そのため、オフショア開発を活用することで、自社の技術力や開発体制を強化することができます。また、オフショア開発では、複数の開発会社からエンジニアをアサインすることも可能です。これにより、自社だけでは賄えないリソースを補充することができ、開発体制を強化することができます。
オフショア開発のデメリット
オフショア開発は、国際的なリソースを活用し、コスト削減や専門的なスキルの確保を可能にしますが、言語や文化の違い、時間差などによるデメリットも存在します。 特にコミュニケーションの課題、品質管理の難しさ、セキュリティリスクは、オフショア開発の成功を阻む可能性があります。これらのデメリットを理解し、適切な対策を講じることで、オフショア開発のリスクを最小限に抑えることが可能です。
コミュニケーションの障壁と解決策
オフショア開発では、言語や文化の違いがコミュニケーションの障壁になり得ます。これにより誤解や情報の食い違いが生じ、プロジェクトの遅延や品質低下のリスクが高まります。コミュニケーションの障壁を乗り越えるためには、定期的なミーティング、明確なコミュニケーションガイドラインの確立、言語トレーニングの提供など、多方面からのアプローチが求められます。
品質管理の難しさと対策
オフショア開発の別の課題は品質管理の複雑さです。遠隔地での開発では、現地チームの作業状況や品質基準が把握しにくく、品質の不均一性が問題となります。品質管理を徹底するには、明確な品質基準と評価基準の設定、定期的なコードレビュー、テストの実施、フィードバックプロセスの強化などが不可欠です。
セキュリティリスクの認識と軽減策
セキュリティリスクはオフショア開発における大きな懸念事項です。データのやり取りの増加により情報漏洩のリスクが高まる他、異なる法域での開発はデータ保護法の違いによる問題を引き起こすことがあります。
セキュリティリスクを軽減するには、厳格なデータ管理ルールの設定、セキュリティトレーニングの強化、法的コンプライアンスの確認が必要です。
オフショア開発成功のためのポイント
オフショア開発の成功は、プロジェクト管理、コミュニケーション、品質管理など、多くの要素が複雑に絡み合うことで達成されます。これらの要素を理解し、戦略的に取り組むことにより、オフショア開発のリスクを最小限に抑え、成功に向けて進むことが可能です。
明確な目的と目標を設定すること
オフショア開発を導入する目的や目標を明確に設定することが重要です。コスト削減なのか、技術力・開発体制の強化なのか、グローバルリソースの活用なのかによって、最適なオフショア開発の形は異なります。目的や目標を明確にすることで、開発会社選びやコミュニケーションの円滑化につながります。
例えば、コスト削減を目的とする場合は、人件費の安い国や地域の開発会社を選ぶ必要があります。技術力・開発体制の強化を目的とする場合は、実績や技術力のある開発会社を選ぶ必要があります。グローバルリソースの活用を目的とする場合は、海外の開発会社と連携しやすい開発会社を選ぶ必要があります。
適切なコミュニケーションを図ること
オフショア開発では、日本国内と海外の開発会社が連携して開発を進めるため、適切なコミュニケーションを図ることが重要です。定期的なミーティングや、情報共有ツールの活用などを通じて、円滑なコミュニケーションを図るようにしましょう。また、言語や文化の違いによる誤解やトラブルを防ぐために、コミュニケーションのルールを決めておくことも大切です。
適切な開発会社を選ぶこと
オフショア開発を委託する開発会社を選ぶ際には、技術力や実績、コミュニケーション能力などを考慮することが重要です。オフショア開発には、言語や文化の違いによるコミュニケーションの課題、時差によるコミュニケーションの課題、品質管理の課題など、さまざまなリスクが存在します。そのため、リスクを乗り越えられるかどうかも、重要なポイントです。
具体的には、以下の点に注意して開発会社を選びましょう。
- 開発実績や技術力
- コミュニケーション能力
- リスク対応能力
おすすめのオフショア開発企業
オフショア開発を検討する際に、「どこの国でオフショア開発をするべきなのか?」といった声をよくいただきます。国によってエンジニアの人件費(単価)や文化や国民性が異なるので、確かに国についてもしっかりと考えることが望ましいです。
ですが、今はそれ以上に「企業別」でオフショア開発先を比較検討することが非常に重要です。IT人材が豊富なベトナムを中心に、日本向けにオフショア開発を提供するIT企業が非常に増えています。そこで何が起こっているかというと、受託企業間での競争が激しくなり、「差別化」が大きなテーマとなっているのです。
例を挙げると、次のようなイメージで各社の強みや得意領域が明確化しています。
- 特定の技術領域に特化している(例:Rubyでの開発に特化、Webマーケティング領域に特化、クラウド構築に特化、など)
- 非常に柔軟な開発体制の実現(例:即日ラボ体制構築、ラボをそのまま子会社化できる、月毎にリソース量の変更が可能、など)
- その他の差別化事例(例:とにかくコスト削減、提案時に無料でプロトタイプを開発、ITコンサルやサービス企画もサポート可能、など)
オフショア各社が自社の特徴・独自性・専門性を強めているので、発注者側にとっては選択肢が広がり、自社にぴったりの発注先が見つかる可能性が高まっているのです。オフショア開発に取り組みやすい環境ができあがり、多くの企業でオフショア開発を検討しやすい状況になったともいえるでしょう。こうした状況から、特定のオフショア開発企業を画一的にお勧めすることが難しくなっています。開発内容や実現したいことといった要件・要望から、最適な開発会社を探していくことが成功のポイントだと思います。自社にあった企業を探すのにお困りの際には、お気軽にオフショア開発. comにご相談ください。
ここでは、参考までに開発実績が豊富で、技術力や品質に定評があるオフショア開発企業を3社だけピックアップして紹介します。
株式会社ブライセン
株式会社ブライセンは1986年創業で、ベトナム中部の都市フエで事業をスタートさせ、市内最大規模で最古のIT企業です。フエ大学と連携し、優秀な学生が毎年30名入社するなど、安定的なリソース確保を実現させています。
その為、お客様のご要望に合わせて日本法人とベトナムから人材を組み合わせる「真ハイブリッド」なオフショア体制を構築することが可能。上流工程に日本要員をアサインし、お客様と要件整理を実施、ベトナムメンバーに指示を出して開発を実施しています。お客様は直接オフショアとやり取りが発生しないため、オフショアを感じないオフショア開発を提供しています。
また、長年の実績があるため、失敗事例からの学びを全てナレッジ化されており、さらに多種な案件(WEB、モバイル、組込、AI等)に対応することが出来ます。
株式会社Sun Asterisk
株式会社Sun Asteriskは2013年創業で、現在4ヶ国、6都市にて約2000名のエンジニアやクリエイターが在籍するデジタル・クリエイティブスタジオです。新規事業開発やDX推進から、IPOを目指すスタートアップの伴走型開発支援、中堅企業のサービス開発、アプリ開発、基幹システムの構築など、幅広い業界、分野で実績があります。
事業開発のどのフェーズからでも入ることができ、数名のミニマム体制によるPoCやMVP開発による検証から、日本側のPMやエンジニアが要件定義、基本設計を行い、数十人から100人規模の開発体制の構築、伴走が可能です。
また、アジャイル開発の手法を取り入れたSun*独自のDevOpsを用意しており、スピードと品質を追求しています。
VNEXT JAPAN株式会社
VNEXT HOLDINGSは15年以上、日本でソフトウェア受託開発を主力事業とし、IT総合サービス会社として東京・ハノイ・ダナンで多角的な事業を展開。2016年以降はAIやブロックチェーンなどの先端技術に特化したグループ会社も設立し、高品質で柔軟な開発サービスを提供し続けています。
豊富な開発リソースを持ち、アーキテクチャ設計から構築までの経験を持つエンジニアや、クラウドなど最先端技術に関する資格を有したスタッフが多く在籍しています。
また、上流工程から開発・テスト・実装、リリース後の運用・保守までをトータルサポートができ、さらに、ベトナム人エンジニアが開発したプロダクトは、日本人エンジニアがチェックするなど、品質管理がされている為、日本企業と変わらないクオリティを保証します。
上述の通り、オフショア開発の成功のポイントは、開発内容や実現したいことといった要件・要望から、最適な開発会社を探していくことです。オフショア開発. comはオフショア開発専門の発注先選定支援サービスとして、10年以上運営・6000件以上の相談実績がございます。自社にあった企業を探すのにお困りの際には、お気軽にオフショア開発. comにご相談ください。