ラボ型開発とは、オフショア開発における開発形態の一つで、「ラボ契約」や「ODC(オフショア開発センター)」とも呼ばれます。作業要因×期間に対する契約となりますので、契約形態でいうと準委任契約になります。つまりある一定期間、海外のエンジニアを確保して開発できるもので、オフショア開発企業の中に専任の開発チームを持てるようなイメージです。
■ ラボ型開発(ラボ契約・ODC)とは?
ラボ型開発とは、オフショア開発における開発形態の一つで、「ラボ契約」や「ODC(オフショア開発センター)」とも呼ばれます。作業要因×期間に対する契約となりますので、契約形態でいうと準委任契約になります。つまりある一定期間、海外のエンジニアを確保して開発できるもので、オフショア開発企業の中に専任の開発チームを持てるようなイメージです。
そのため、ラボ型開発では仕事の有無に係らず、あらかじめ優秀な人材を自社専用に確保しておくことで、柔軟に開発を依頼することができ、かつ同じ人材を継続的に確保できることから仕様やノウハウを蓄積できる特長があります。
これまでラボ型開発では、半年や1年程度の期間でエンジニアを確保することが一般的でした。しかし最近では、1ヶ月単位でのラボ契約や月単位での人数の増減変更、最小1名からのラボ契約など、柔軟なラボ型開発を提供するオフショア開発企業が増えています。
たとえば、以下のようなニーズがある企業には有望な選択肢となってくる開発スタイルでしょう。
◆定期的に案件があり、自社専用の優秀な人材を確保したい
◆オフショア先で仕様・ノウハウを蓄積することで、効率的に開発を進めたい
◆仕様が決まっていない、あるいは仕様変更が見込まれるプロジェクトを抱えている
◆自社のリソースが不足することがあるので、流動的に開発ラインを増強したい
◆今後自社でも海外に開発ラインを持ちたいと考えているが、
まずはオフショア開発のノウハウを蓄積したい
■ ラボ型開発のメリット
|優秀な人材(特にリーダークラス以上)を確保できる
請負契約などの契約形態では、継続的に取引を行っていたとしても、アサインされた優秀な人材(特にリーダークラス以上)を確保できる保証はありません。
具体的には下記のような事例です。
「日本企業A社は、ある案件でベトナムオフショア会社X社と請負契約し、X社の優秀なリーダーα氏のマネジメントにより、開発プロジェクトは無事成功した。A社はその1ヶ月後、 新たな案件を持って、X社に打診をしたが、リーダーα氏は、既に他社B社のプロジェクトに参画しており、他のリーダーをアサインしなくてはならなくなった。」といった事例です。
ラボ契約では、契約期間中は特定の人材を自社専属で抱え込むことが可能になりますので、こういった事態に陥ることを契約で防止することが可能となります。
|開発ノウハウを蓄積しやすくなる
ラボ契約(ラボ型開発)は、言わば、最低保証分の発注を保証する見返りに、リーダー並びにメンバーを固定化することが可能となり、発注者にとっては、ノウハウの蓄積を行いやすい開発体制を構築することができます。具体的には、契約期間中おなじ開発チームに継続的に依頼ができるため、プロジェクトの立ち上げにかかる工数が大幅に削減できます。
|仕様変更にも臨機応変に柔軟な対応ができる
請負契約が成果物に対する契約であるのに対して、ラボ契約では作業要員×期間に対する契約になります。すなわち、成果物に対する契約ではないため、契約期間中に仕様変更が度々発生しても追加費用もなく、柔軟に対応することができます。
これまで、長年日本市場向けにサービス提供していた中国オフショア開発企業では、開発途中の仕様変更の発生を当然のものと認識しており、請負契約であっても比較的柔軟かつ臨機応変に対応してくれる会社も多くありました。しかし、基本的に請負契約においては仕様変更があった際には見積を調整する必要があるのが一般的でしょう。
|機密性の高い案件も発注しやすくなる
ラボ契約(ラボ型開発)を行うと、言わば中期的な発注計画を立案することに等しくなります。そのためオフショア開発会社側で、発注者固有のフロア、他とは隔絶した開発環境の確保が行いやすくなります。パートナーX社の中に発注者A社の開発センターを設置するイメージです。これにより、機密性の高い案件も発注しやすくなります。発注計画にもよりますが、専用の開発ルームを提供できるオフショア開発企業は近年、非常に増えています。
■ ラボ型開発のデメリット
|一定量の発注がなければ費用対効果が低くなるリスク
ラボ契約(ラボ型開発)を行う場合、たとえ発注する仕事がない場合でも、確保しているエンジニア要員分の費用(人件費)が発生してしまいます。そのため、契約期間中は確保しているエンジニアのリソースを最大限活用できるように一定の発注量が必要となります。
こうしたリスクを防ぐために、会社として、組織として、きちんとした発注計画を立案し、これに基づく発注を行っていくことが重要です。たとえば、「ある一定のIT開発領域を中国やベトナム、フィリピン、ミャンマーなど海外(オフショア)にシフトする」等、企業としての明確な方針に基づき、運用することでラボ型開発を有効に活用することができるようになります。
ただ、最近では「月単位でエンジニア人員数を変更できる(毎月契約更新)」ようなラボ型開発を提供する企業も増えてきています。発注量の予想ができるのであれば、「この月はエンジニアは1名減らして3名でラボ契約にしよう」といった数ヶ月単位での調整を行うことで、リスクを抑えることができます。
|ラボ開発チームの立ち上げに時間がかかる
ラボ型開発ではプロジェクトを進めるために必要な人材を確保する契約形態です。また一定の発注量があることが望ましいことから、中長期的な契約になることが一般的です。
そのため、コミュニケーションフローの確立や、自社の開発プロセスや品質基準の浸透、ナレッジ蓄積やドキュメント管理の仕組み作り、など開発チームの立ち上げをしっかりと行うことが重要となります。
|発注側が担うマネジメントの役割が大きい
ラボ型開発では、自社専属の開発チームを確保するイメージでプロジェクトを進めます。いわば、発注者側が開発チームに指示を出したり、品質を確認するなどのマネジメントが必要になります。発注側の対応工数がかかることは念頭においた方が良いでしょう。
■ ラボ型開発と請負開発の違い
一般的には開発するプロジェクトが単発である場合、仕様などの要件定義が明確に定まっている場合、納期が決まっている場合などは請負開発が選択されることが多いです。
逆に開発が中長期的に継続する場合や、仕様が明確に決まっていなかったり、アジャイル開発(*)でプロダクトの改善サイクルを回す場合は、ラボ型開発が選ばれることが多いです。
|請負契約
<概要>
成果物に対する契約
<責任範囲>
契約期間内の成果物の完成
<開発手法>
ウォーターフォール型が一般的
<メリット>
開発会社側に成果物責任があり、成果物と責任範囲が明確であること。また発注側の対応工数は抑えられる傾向にある。
<デメリット>
開発案件の立ち上げ負荷が高い。また、成果物と責任範囲が明確である一方、開発途中での仕様変更が困難となる。またリスクの上乗せによりコストが増える可能性あり。
<向いている開発案件>
要件が明確な案件や、予算制約が厳しい案件、小さい規模の開発案件など。
|ラボ型開発
<概要>
作業要員×期間に対する契約。オフショアベンダ内に専任の作業チームを確保する。
<責任範囲>
契約期間内に定められた人員の稼働(業務遂行)
<開発手法>
ウォーターフォール型、アジャイル型のどちらもよく選択される
<メリット>
開発案件の立ち上げ負荷が低い。また、事前に成果物と責任範囲が定められていないため、柔軟に仕様変更に対応可能。優秀な人材を契約期間中に自社専属に確保することができる。
<デメリット>
生産性や品質に責任担保がない。また、一定量の発注確保がなければ、費用対効果が悪くなるリスクあり。コストメリットおよび業務効率向上には、作業継続による人材育成が必要。
<向いている開発案件>
要件が曖昧な案件や、継続的に予算確保できる案件、継続性のある開発案件
* 参考:「アジャイル開発とは?|適したプロジェクトと契約形態も解説」
■ ラボ型開発の注意点&成功のポイント
ラボ契約でオフショア開発を進める場合、一般的に請負契約よりも現地のマネジメントスキル、開発のディレクションが求められます。
請負契約の場合は、プロジェクト開始にあたって成果物の仕様やスケジュール、費用を決定することになります。そのため、発注企業は開発プロセスに深く関わることがなくても、契約で定められた通りに受託企業が開発を進めてくれます。
一方でラボ契約・ラボ型開発の場合は、受託企業側に成果物責任が伴う請負契約とは異なり、単純に自社の開発メンバーを増やしたような契約になります。そのため、発注者は要所要所で進捗確認や仕様の明確化、成果物のレビューなどのコミュニケーションを積極的にとることが重要となってきます。
上述したオフショア先での仕様・ノウハウの蓄積による開発の効率化についても、自社の開発チームと同様にオフショア開発先も含めたチームビルディングを行なっていくことで、うまくワークするといえるでしょう。
また、ラボ契約で確保したリソースは非常に柔軟に活用することができるので、リソースが余った際には別プロジェクトにアサインする、といったことも可能です。契約分のリソースを最大限に活用するため、継続的な発注計画(開発計画)を策定するのが望ましいです。
以上のようにラボ契約・ラボ型開発は発注企業に多様なメリットをもたらす可能性がある一方で、マネジメントなど担うべき役割も大きい開発形態です。オフショア開発に慣れていない発注企業にとってはオフショア先をうまく活用しきれないリスクも否めません。そのため最近のトレンドとしては、まずは請負契約からスタートさせ、徐々にラボ型へと移行していくのがセオリーとなってきています。海外人材のマネジメントにはやはりノウハウや経験が少なからず必要になる状況もあります。スモールでもよいので、開発企業側に成果物責任が伴う請負契約を踏むことで、オフショア開発のノウハウと成功経験を積むことも検討してはいかがでしょうか。