新しくオフショア開発を導入する場合やアウトソース先を拡大するというニーズの場合、最近ではベトナムが委託先として最も人気を集めています。2023年の実績でも、国を指定した開発相談のうち実に48%がベトナムを希望されています。
下記の図は、オフショア開発. comが発注先選定の依頼を受けるなかで、発注者が希望したアウトソース先の国をまとめたデータです。アウトソース先の国を指定しない相談が64.8%と最も大きいのですが、国を指定した場合の一番人気は2023年もベトナムで48%となっています。次いで、フィリピンの21%、インドの13%と続きます。
オフショア開発が日本で導入された当初からアウトソース先となっている中国は、現在でも大きな市場であることは間違いありませんが、新たなオフショア先という選択肢からは外れており、4%まで下がっています。また、ミャンマーも主要なオフショア開発国でしたが、直近では政情不安の影響もあり、新規の委託は4%に留まっています。
その結果、バングラデシュやフィリピンの比率が高まっています。
オフショア開発の委託先の国別割合(2023年 ※指定なし除外)
- ベトナム: 48%
- フィリピン: 21%
- インド: 13%
- バングラデシュ: 8%
- 中国: 4%
- ミャンマー: 4%
- ウクライナ: 2%
* 出典:「オフショア開発白書(2023年版)」
■ ベトナム|新たなアウトソース先としては人気が一極集中
2023年もベトナムが一番人気という結果でした。「指定なし」を除いて、約半数近くの企業がオフショア先としてベトナムを希望しています。もちろん、指定なしの中でも、検討の結果ベトナムが選ばれる可能性は高く、依然として新規オフショア開発案件はベトナムを中心に発注されている状況であることは確かです。その背景として、親日であること、勤勉な国民性、地理的近さ、そして安価な水準の単価が挙げられてきました。
最近の傾向では、ますます国家としてIT人材の育成に力を入れてきており、「リソースの確保」という点からも文句なしの状況です。また、一部の学校で、第二外国語として日本語を扱う試験的な取り組みがなされたりなど、国として日本とのビジネスを重視していることもあり、日本語人材も豊富となっています。
また、多くの案件を受け入れてきた結果、以前は対応できる企業が少なかった基幹システム / AIやブロックチェーンなどの先端テック/ PKG開発(SAP / Salesforce / kintone…)といったより高度な案件に対応可能な企業が増加している点も特筆すべきでしょう。
そうしたこととも関連しますが、これほどベトナムに相談が集中する理由として「選択肢の多さ」があります。日本企業からのオフショアのニーズ増加に伴い、その受け手であるベトナムオフショア開発企業は急増。その成り立ちは、主に次のような構成になっており、それぞれの特長を活かした提案を行ってくれます。
さらにはこれほど案件が集中する理由として、「選択肢の多さ」が挙げられます。各企業の成り立ちから種別化すると次のような構成になっており、それぞれの特長を活かした提案を行ってくれます。
・ベトナム資本によってベトナム人が設立したケース(特長:単価が安め)
・日本資本によって日本人が設立したケース(特長:日本企業向けサービスが充実)
・日本企業のオフショア拠点が、他社の案件も受けるようになったケース(特長:実績が豊富)
また、ベトナムオフショア開発企業が急増していることに伴い、ベトナム現地ではオフショア開発企業間での「差別化」が大きなテーマとなっているのが近年のトレンドです。また、ベトナムの中では、ハノイ・ホーチミンという二大都市に集中していたオフショア開発企業が、ダナンやフエ、カントーといった地方都市へと分散してきています。そのため、コスト面や得意分野、特長などもさらに細分化しており、発注側の企業は多くの企業に見積もりを依頼し、自社に合ったオフショア開発企業を選択することが可能です。
一方で、ベトナム内でも徐々にトレンドの変化が起こっています。近年、主にIT領域の躍進により、ベトナムの経済成長には目を見張るものがあります。それに伴い、ベトナム国内の人件費が上昇傾向にあり、かつてほどのコストメリットが出しづらくなってきています。
(特に円安の影響が大きかった2022年は顕著な傾向)
■ フィリピン・インド…「グローバル開発体制」の兆し? 英語活用が注目を集める
昨年度に比べ、特にシェアを拡大させたのがフィリピン、インドです。どちらも英語を得意とする国であり、「自社の外国人エンジニアを中心に英語でプロジェクトを実施したい」というケースで、よく検討にあがることが多いです。それぞれ詳しく見ていきましょう。
まず昨年に引き続き2位に位置するフィリピンですが、19%→21%と増加傾向となりまし た。フィリピンに発注する理由としては、「プロジェクト上のコミュニケーション言語に英 語を希望する/ 英語の製品・グローバルに展開するプロダクト開発」といったケースがもっ とも多く挙げられてきました。
この点においては、昨今、日本企業の海外進出やグローバル化が進んでいるという大きな背景があるでしょう。また、国内のITリソース不足=日本語の扱えるエンジニアの不足と捉えると、英語でのIT開発を促進していかなければならないという危機感も後押ししている印象にあります。単なる「オフショア開発」ではなく、「グローバルITリソースの活用」という文脈で、フィリピンでの開発に挑戦する企業が増えていると言えます。ベトナムは日本語に長けているものの、英語力ではフィリピンの後塵を拝します。その点、今後のポストベトナムの動きの中で、「英語」というのは一つのキーポイントとなってきそうです。
続いて、欧米のオフショア開発拠点として栄華を極める「インド」を見てみましょう。先述のグラフから読み取れる通り、インドは13%と3番手につけています。昨年は12%だったことからも、徐々にインドへの案件が増加していることが伺えます。
インドもフィリピン同様、プロジェクト上のコミュニケーション言語が英語である場合に注目されますが、それに加えて、インドの強みである「技術力の高さ」が期待されて検討されることが多いです。
ベトナムやフィリピンといった国々では、徐々に増加しているもののまだまだ基幹系システムの開発に対応できる技術者を多数抱えている大規模な企業はそれほど多くありません。特にSAPを始めとしたERPと呼ばれる大規模な業務・基幹システムの場合、プログラミング言語も特殊で、高度な人材が必要です。こうした領域の開発では、新興のオフショア開発国ではまだ人材育成、体制確保のフェーズである企業が多いのが現状です。
その点、豊富なリソースと実績を有するインドが注目されているのです。ただし、そうした案件におけるエンジニアは非常に高単価であり、オフショア開発という観点からの最大のメリットである「コスト削減」は期待できません。あくまで「リソース確保」、つまり「グローバルな開発体制の構築」の手段として捉えられていくでしょう。
■ ミャンマー・中国…カントリーリスクと中長期的な判断が必要な2カ国
主要なオフショア国としては、今回低迷したのがミャンマーと中国の2カ国です。要因は「カントリーリスク」と言っていいでしょう。
これまでミャンマーでは、2016年にアウン・サン・スー・チー氏が実質的な権力を握ると、民主化が本格的に進むという予測のもと国外からの投資が増え、課題であったインフラの問題などが解決されつつありました。その流れに呼応するように、相談のシェアは増えていき、その結果として、プロジェクトを進める力を持ったエンジニアの育成が進んでいます。また、ベトナムと比べても安価なリソースが強みで、にわかに人気を集めていました。
しかし、2021年に勃発したクーデターの影響が大きく、2022年においても依然としてリスク回避をしたい発注企業側の意思が働いていると思われます。ただ、現状ミャンマー現地におけるオフショア開発自体は問題なく稼働しているようです。また2022年においては、オフショア開発全体で円安の逆風が吹いていましたが、ミャンマー通貨チャットもクーデターの影響でレートを大きく落としているため、ミャンマーは大きなコストメリットを実現できる可能性を秘めています。
ミャンマーはポストベトナム最前線として、エンジニアのレベルが急成長している国です。政情が一変し、不安定な状況ですが、有望なオフショア先としてのポテンシャルは確かです。引き続き、政情の動向を注視していかなくてはいけないでしょう。
続いて中国ですが、新規発注シェアは年々減少傾向で、昨年7%→4%という結果でした。ただし、あくまでオフショア開発を「これから」発注する企業の割合であるため、既に中国のオフショア開発企業を活用している企業は多く、市場規模としては大きいことには留意する必要があります。
ただし、2022年はカントリーリスクの増大と単価上昇の影響が大きく、そうした案件もベトナムやその他の国へのシフトが始まっています。
それでは、この先、中国をオフショア開発先として活用することは難しくなっていくのでしょうか。この問いの答えはある意味では「正しい」でしょう。BATH(バイドゥ、アリババ、テンセント、ファーウェイ)に代表されるように、いまや中国企業の技術力は日本を凌ぐと言われています。それに伴って単価の上昇は著しく、場合によっては日本国内以上の単価となることも出てきています。
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