公開日:2022/09/08 最終更新日:2023/08/28
中小企業の物流DXを加速する…WMS(倉庫管理システム)とは?
日本企業にとってDX化は大きな課題であり急務です。今回は物流業界のDXを加速する倉庫管理システム、WMSについて解説していきます。
コロナ禍でEC需要が高まり、物流業界への負担も大きくなっている今、人材不足や残業増加に歯止めをかけるため、DX化は物流にかかわる全ての企業にとって必要不可欠なものとなっています。
本テキストではWMSとは何か、他のシステムとどう違うのかといった基礎知識から、導入のメリットデメリット、導入事例について詳しく解説していきます。
INDEX
1. WMSとは?
2. 物流業界におけるDXの動向
3. WMS導入のメリット
4. WMS導入のデメリット
5. WMS導入事例
WMSとは?
|WMSとは?
WMSとは「Warehouse Management System」の略であり、倉庫管理システムを意味する言葉です。主に入出荷管理や在庫・棚卸、在庫管理など倉庫内のさまざまな業務を効率化できる便利なシステムであり、物流業界のDX化を支える存在として注目が集まっています。
これまでのシステム化されていなかった倉庫管理においては、倉庫内の状況をデータ化するのに時間がかかったり、誤出荷などの人的ミスが一定数生じたり、という問題がありました。WMSによって倉庫管理をシステム化することで、リアルタイムで倉庫内の状況が管理できるため、倉庫内業務を大きく効率化することができます。
・在庫管理システムとの違い
WMSは在庫管理システムと訳されることもありますが、WMSでは倉庫管理に必要な在庫データを扱うことがあるだけで、管理するのは基本的に倉庫内の在庫のみです。
在庫管理システムは倉庫外の在庫も管理するシステムなので、WMSとは管理する範囲が異なります。
・TMSとの違い
TMS(Transport Management System)は輸配送管理システム、輸送システム、配送管理システムとも訳されるシステムであり、出荷後の配送にまつわる情報を管理するものです。
そのため、倉庫内の管理を行うWMSとは役割や機能が全く異なります。
・OMSとの違い
OMS(Order Management System)は受注管理システムのことで、注文管理システムや発注管理システムとも訳されます。注文情報の管理や入金確認、在庫情報の管理を行います。
OMSは注文に関する情報を一括管理するもので、こちらも倉庫内の管理を行うWMSとは違う役割を果たすシステムです。
|WMSのタイプ
WMSには、クラウド、オンプレミス、パッケージの3つのタイプがあります。それぞれの違いを確認しておきましょう。
・クラウドタイプ
近年、さまざまなシステムでクラウド型が主流となっていますが、WMSにおいても初期費用をおさえることができるクラウドシステムは人気を集めています。
クラウドタイプのシステムはクラウド上にすでに構築されているシステムを、月額使用料を支払って利用するものであり、初期費用をおさえるだけでなくサーバーやセキュリティ管理などの手間を省くこともできます。インターネットに接続できさえすれば外出先でも利用でき、情報共有が簡単にできるのも非常に便利なポイントです。
デメリットとしてはすでに構築されているシステムであるためにカスタマイズに限界があることや、インターネットに接続されていないと利用できないことなどが挙げられます。
・オンプレミスタイプ
オンプレミスタイプのシステムは、サーバーやネットワークなどシステムを自社で保有して運用するもので、自社で管理する手間が増えることや開発にコストがかかるのがデメリットですが、自社に最適なシステムを構築できることが大きなメリットです。
・パッケージタイプ
完成しているシステムがパッケージ化されており、それをインストールすれば利用できるのがパッケージタイプです。
3つのタイプの中で最もカスタマイズに柔軟性がないのがデメリットですが、安価なものも多く、すぐに使い始めることができる手軽さが大きなメリットです。
|WMSの市場規模・市場動向
WMSの市場規模は世界的に成長しています。インド創業の世界的な市場調査会社であるMarkets and Markets社の調査によると、WMS市場は2021年には28億ドルの市場規模となっており、これが2026年には61億ドルへと成長する見込みです。
国内最大の物流ニュースサイトであるLOGISTICS TODAYの調査によると、回答者の3分の2がWMSを導入しており、今後導入することが決まっている回答者は6割近くとなっています。国内においてもWMSの需要が高まっていることがわかりますね。
物流業界におけるDXの動向
|物流業界・物流現場における課題
近年、物流業界では労働力不足が深刻化しています。全日本トラック協会による調査「トラック運送業界の景況感」では、2022年4月から6月期において、労働力の不足感を不足、もしくはやや不足と答えた割合は63.6%となっており、今後はさらに労働力が不足すると見込まれています。
同調査においては所定外労働時間が増えていることや、燃料費の高騰によって経営が悪化していることにも触れられており、物流業界にとって業務効率化とコスト削減が急務であることがわかります。
また、近年はECが一般的となり、コロナ禍の巣ごもり需要も相まって小口宅配便の個人需要が激増。倉庫内のスペースが不足するという事態も招いています。
これらの問題を解決する手段として、WMSをはじめ物流業界のDX化に注目が集まっています。
|なぜWMSの市場が成長しているのか?
世界的にWMSの市場規模が拡大している大きな原因は、やはり新型コロナ感染症の世界的なパンデミックによってEC業界が急成長したことでしょう。
また、近年一般的になりつつあるマルチチャネル(複数の流通経路を使って顧客にアプローチする販売戦略)の存在や、クラウドタイプのWMSを採用する企業が増えたことなども一因のようです。
NECソリューションイノベータの調査「物流や配送、物流システム(TMS/WMS)に関するリサーチ結果2022」によれば、高い満足度を得られているWMSの機能は1位が「リアルタイムでの在庫管理」で2位が「作業の進捗管理」という結果が出ています。WMSによって業務の効率化が効果的に進んでいることがわかりますね。
同調査によると100人未満の従業員規模の場合はWMSを「当面導入する必要はない」と回答する企業が比較的多いのだとか。小規模な倉庫管理は人力でも何とかなってしまうことも多いため、コストがかかるシステムの導入に二の足を踏む企業も多いのかもしれません。
近年、クラウドタイプのWMSを導入する企業が増えています。小規模企業も導入しやすいこのようなWMSがさらに普及すれば、今後はこういった傾向も変わっていくのかもしれません。
WMS導入のメリット
世界的に需要が高まり、市場規模も大きく成長していくWMS市場ですが、WMSを導入・活用することでどのようなメリットが得られるのでしょうか。多くのメリットが見込めますが、代表的な3つを解説します。
|リアルタイムで在庫状況を把握できる
先述した調査結果からもわかる通り、WMSを導入した多くの企業がリアルタイムで在庫状況が見えることに高い満足感を示しています。在庫の数だけでなく、消費期限に応じた対応も可能なWMSを活用すれば、在庫の無駄を減らし、商品の生産や仕入れも効率化することができます。
|人的ミスを減らすことができる
単純な確認漏れや記入ミス、計算ミスなど、ヒューマンエラーは一定の確率で起こってしまうもの。システム化することでそういった人的ミスを減らすことができるのは、WMS導入の大きなメリットの一つです。
倉庫管理担当者がベテランである企業より、業務熟練度の低い担当者が倉庫管理を行なっている企業が、WMSを導入したことでより高い満足感を得ているというデータもあります。WMSを導入することで新人の倉庫管理担当者であってもベテラン並みの倉庫管理ができるというのは、企業にとっては非常にありがたいことですよね。
|コスト削減につながる
業務を効率化することができ、人的ミスを減らすことができるWMS。人力で行っていた多くの作業をシステムに任せることで、工数を減らし、コスト削減につなげることができます。
WMS導入のデメリット
世界的に導入する企業が増加しているWMSですが、導入にあたってはデメリットについても知っておきたいところ。WMS導入の際のデメリットについても確認しておきましょう。
|導入コストや教育にかかるコスト発生は避けられない
活用することでコスト削減が見込めるWMSですが、導入時にある程度まとまったコストが発生してしまうのは避けられません。担当者がシステムを使えるようになるための教育にも手間がかかるため、ただでさえ業務量が多い物流業界において、システム導入に二の足を踏む企業がまだまだ存在するのは仕方ないことなのかもしれません。
ただし、これらのデメリットはマニュアルをわかりやすく作ることや、現場の従業員にWMS導入のメリットを説明して、協力的な体制を作っておくことで解決できます。
|システムの選定を間違えると効率化に失敗することも
クラウドにするのか、オンプレミスにするのか、どのような機能が自社に必要なのか、システムを導入する際には、それが自社の業務にフィットしていなければ宝の持ち腐れです。
高額なシステムを導入したのに全く使えない、ということが起きてしまっては、業務の効率化もコスト削減も遠のくだけ。
導入時には自社に最適なWMSはどのようなものなのか、必要な機能や予算などをしっかり確認してから選定を行いましょう。
WMS導入事例
国内でWMSを導入して経費削減につなげた実例と、自社でWMSを開発して外部への提供を開始した実例をご紹介します。
|WMS導入によって経費を大きく削減した株式会社SSK
1946年に京都で創業し、今は大阪に本社をおくスポーツ用品メーカー株式会社SSKは野球用品のオリジナルブランドで高い知名度を誇る企業ですが、業績の8割を卸業が占めており、2020年度の売上は430億円を超えています。
同社は2000年にバーコードによって管理する出荷検品システムを導入し、それを皮切りにIT化を積極的に推進。2009年には基幹システムのリニューアルと同時にWMSを導入し、商品1点あたりにかかる平均経費を94円から84円へと大きく下げることに成功しました。トータルの物流経費においても4.5%程度から4%へと引き下げることができたのだとか。
|自社で独自に構築したWMSを開発した株式会社エアークローゼット
女性向けの月額制ファッションレンタルサービスである「airCloset(エアークローゼット)」を運営する株式会社エアークローゼットは、シェアサービスに最適なWMSを自社で開発し、このシステムを外部へも提供しています。
WMS開発時には従業員が倉庫内でどのように移動するか、経路のデータを取得することでコスト削減につなげた実績もあるのだとか。そういった試みの結果、2021年の6月期には創業してから初めての通期黒字化を達成。シェアリングエコノミーを通期黒字化した企業は世界でも珍しいそうです。
RFID(非接触でICタグのデータを自動識別できる技術)を活用し、商品ごとの貸出履歴や検品履歴などを把握することで、商品の品質を一括管理できるこのWMSは、同じ商品を複数のユーザーが利用するシェアサービスに最適なシステムとなっており、今後の広がりが期待されます。
まとめ
WMSは導入することで業務の効率化とコスト削減が見込める、物流業界において強力な味方となるシステムですが、どのシステムを選択するか、既に構築されたシステムを活用するのか、自社で開発するのかなど、導入にあたっては決定事項や選択肢が多すぎるのが悩みの種です。
近年はクラウドタイプのWMSを活用する企業も多く、自社開発は敷居が高いものという印象も多いようですが、エアークローゼットの例のように独自のサービスを展開している場合は既存のシステムを利用するより、自社で開発した方がコスト削減や業務の効率化につながることも。
WMSの開発を検討するなら、オフショア開発を視野に入れてみてはいかがでしょうか。国内のIT人材不足は慢性的なもので、人件費も高騰しており、開発コストが高騰する原因となっていますが、オフショア開発なら優秀な人材を活用し、低コストで開発を行うことができます。
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