最終更新日:2023/08/24

金融業界におけるDXの課題と取り組み事例

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2025年の崖問題について経産省が発表したのは2018年。それ以降、日本の多くの企業がDXを進めていますが、金融業界はもっともDXが遅れている業界として大きな問題となっています。

 

本テキストでは、金融業界にDXが求められる理由や抱えている課題、近年注目されているFintechなどについて詳しく解説していきます。金融業界におけるDX事例なども確認しつつ、これからの金融業界に求められるDXについて理解を深めていきましょう。

INDEX

1. 金融業界にDXが求められる理由…

2. 金融業界が抱える課題

3. FinTechの動向は?

4. 金融業界におけるDX事例

5. これからの金融業界に求められること…

金融業界にDXが求められる理由…

DXとはデジタルトランスフォーメーションのことであり、「デジタル技術によってビジネスを変革し、競争上の優位性を確立すること」を言います。これは日本のすべての企業に対して求められているものであり、金融業界に限ったものではありませんが、前述したとおり金融業界は日本の中でもDX化に大きく遅れを取っている業界であり、DXの推進が急務とされています。

 

DXでは遅れている金融業界ですが、実はITについては他の業界に先んじて導入を進めており、1970年代から1980年代にかけては高度なセキュリティを備えたシステムを完成させています。ただしこれはセキュリティを重視したため、外部システムとの連携ができない非常に柔軟性の低いものとなっており、それが時代に合わせたシステムに変化させていくことを阻んだ一因となっています。

 

古いシステムを使い続けているだけではなく、他業種ですでに進むペーパーレス化でも金融業界は遅れをとっており、業務全体を大きく見直す必要があります。

 

金融業界がDX化を進めることで、財務実績だけではなくさまざまなデータから総合的に企業の将来性を判断することが可能となれば、これまで資金調達が難しかった企業に対しても融資が緩和され、日本の新ビジネスも活気付くことが期待されます。

また、金融業界自身もDXによってこれまでの働き方が見直され、業務効率化や働きやすい環境の提供による人材の流出防止など、大きなメリットがあることは間違いありません。

金融業界が抱える課題

日本の経済のためにも、一刻も早く金融DXを推進したいところではありますが、先に少し触れたとおり、金融業界にはDXを阻むさまざまな課題があります。

 

|顧客体験の変化への対応

 

インターネットの高速通信が一般的となり、スマートフォンが普及したことにより、多くの顧客は便利なアプリやサービスに慣れ親しんでいます。古いシステムをベースにしたアプリをリリースしても、窓口がスマホに変わっただけであり、新しい顧客体験を提供するには至りません。サービスを抜本的に改革し、顧客体験を創造することが求められます。

 

|参入企業の増加と競争の激化

 

近年、セブン銀行や楽天銀行など、異業種が金融業界に進出しており、競争が激化しています。コンビニやインターネットといった、顧客にもっとも近い場所にある業種からの参入とあり、安価な手数料や24時間利用可能なATMなど、顧客にとって使いやすいサービスの登場は、古いシステムの上にあぐらをかいていた銀行にとっては脅威と言えます。

 

また、GAFAと呼ばれる世界的なIT企業も金融業界に進出し始めており、ビッグデータの活用で金融サービスに新しい改革がもたらされることが期待されています。

最近は「Finance(金融)」と「Technology(技術)」を合わせた造語である「Fintech」という言葉も生まれており、ITと金融の連携による新しいサービスが続々と登場しています。

 

このように競争が激化している中でDXを進め、新しい技術や多くの顧客データを持つ新規参入企業と渡り合っていかなければならないというのは大きな課題の一つです。

 

|レガシーシステム

 

かつて金融業界は他の業種に先駆けてIT化を進めましたが、そのシステムを時代に合わせて変えていくということができなかったため、多くの企業に遅れをとる事態となっています。

GAFAなどの大企業だけでなくITに強いベンチャー企業も次々に金融市場へと参入する今、レガシーシステムから脱却し、新しいビジネスモデルへと変化させる必要があります。

 

|伝統からの脱却ができない

 

ペーパーレス化が進む今も、銀行では紙や印鑑を必要とする契約がまだまだ残っています。膨大な紙のデータを移行させるのはデータの消失などさまざまなリスクが生じるため、ペーパーレス化はなかなか進んでいないようです。

 

人口の減少や、日本経済の低迷による顧客の低所得化など、個人向けの金融サービスは手数料だけでは収益を上げられず、今後は窓口対応の人件費が収益を上回る事態にもなりかねません。

金融機関はアプリやWebサイトなどの窓口に関するDX化は進めているものの、バックオフィス業務は思うようにDXを進められておらず、結果、新たな顧客体験にはつなげられていないのが現状のようです。

FinTechの動向は?

「Fintech」とは、「Finance(金融)」と「Technology(技術)」を合わせた造語です。

前項でも少し触れましたが、近年、ITと金融の連携による新しいサービスである「Fintech」が生まれ、社会の変化のスピードに敏感なベンチャー企業も参入し、大きな盛り上がりを見せています。

 

2020年8月には、オンライン決済サービス「バンドルカード」を主力事業とする株式会社カンムがセブン銀行から11.3億円の資金調達を行ったことが話題になりました。2022年6月にはSBI損保がFintechのスタートアップ企業である株式会社IBとチューリッヒ保険、ライフネット生命と共同プロジェクトを開始。保険契約の一元管理プラットフォームを構築し、加入者の利便性向上を追求すると発表しています。

 

|FinTechの市場規模とトレンド

 

世界のFintech・ブロックチェーン市場は2020年に約12.5億ドルの規模に成長しました。2021年から2027年にかけて75.9%以上の成長率が見込まれています。

 

Fintechベンチャー企業の国内市場規模は2018年度の2145億円から、2022年度は1兆2102億円に拡大すると見込まれており、わずか4年で5倍以上の成長を遂げている市場です。特に非金融業とFintech企業との連携が目立ち、日本のFintechベンチャー時は決済や投資、保険や融資、クラウドファンディングなど多くの分野で成長しており、今後も高い水準で伸びていくと予測されています。

 

日本のFintechは海外に比べて遅れており、成長率が高いからと言って手放しで喜べるものではありませんが、著しい成長が見込める分野として、日本におけるFintechの注目度は今後も上がっていくことでしょう。

 

CO2排出量の可視化サービスで脱炭素化を進める株式会社ゼロボードが三菱UFJ銀行との協業をスタートするなど、金融業界にもSDGsの流れが起きています。FintechにもSDGsへの関心は少なからず影響すると見られ、今後のトレンドとして注目されています。

 

また、Fintechのトレンドとしてはブロックチェーンにも注目しておきたいところ。NFTや仮想通貨に関してはまだ議論が進んでおらず、法整備もじゅうぶんとは言えませんが、STO(Security Token Offering:デジタル証券を活用した資金調達手段のこと)については大手金融機関が本格的に取り組み始めています。

 

|Fintechのサービス事例と今後の見通し

 

さまざまな分野で成長するFintech企業。私たちの身近にあるFintechの事例としては、電子マネーなどのオンライン決済やクラウドファンディング、仮想通貨、ネット保険などが挙げられます。

 

支払いや資金調達、保険や投資など多くのサービスが今やインターネットで完結する時代となっています。

 

今後は、さらにニッチなニーズへの対応や、資金調達などにスピード感のある対応を行うといったサービスが増えていくと予想されます。

金融業界におけるDX事例

金融業界では、DXそのものはもちろん、DX人材の育成に重きを置いた「DX人材の教育」に力を入れています。即戦力の人材は争奪戦であり、ITに馴染みの深いDX人材は金融業界の保守的な風土に堅苦しさを感じて定着しづらい傾向にあるため、各社は「急がば回れ」と社内人材の育成に乗り出している、というのが理由のようです。

 

|三井住友銀行

 

三井住友銀行を傘下に置く三井フィナンシャルグループは2022年6月、SBIホールディングスとの資本業務提携を発表しました。中期経営計画に「グローバルソリューションプロバイダー」を掲げ、デジタルによって銀行そのものを変革することを目指しています。

 

三井住友銀行では2016年から社内デジタル教育機関「デジタルユニバーシティ」を立ち上げ、グループ全従業員を対象とした「デジタル変革プログラム」を開始しています。知識だけでなく、なぜ学ぶのかというマインドセット変革を重視した構成のプログラムであり、従業員がDXを自分ごととして捉えることができるよう工夫されているのだとか。

ワークショップでは企業の課題を引き出し、DXによるビジネスモデル構想なども疑似体験するといった試みがなされていると言います。また、専門人材については研修を大学院などで行うことも。

実際に、これまで金融取引のなかった企業からデジタルに関する相談が持ちかけられ、取引につながった事例など、成果は少しずつ出始めているようです。

 

|クレディセゾン

 

2021年、デジタル先進企業を目指して「CSDX戦略」を策定したクレディセゾン。この戦略は全社を横断したDX推進体制を構築することを目的とし、デジタル人材の育成や内製化の推進などが取りまとめられたものです。

CX(顧客体験)と同時にEX(従業員体験)を高めることも重視しているのが大きな特徴で、この戦略の作成は取締役専務執行役員CTO兼CIOである小野和俊氏のもと、進められました。小野氏はもともとSE経験者であり、24歳でITベンチャーを築いた人物。国内有数のDX人材による金融DXに注目が集まっています。

 

|JPモルガン・チェース

 

アメリカの金融業界は2008年に起きたリーマンショック以降、DXを推進しており、中でもJPモルガン・チェースはDX推進において有名な金融機関の一つです。同社はFintechに年間1兆円を投資しており、アメリカの銀行では初めて、独自の仮想通貨を開発するなどしています。

CEOであるジェイミー・ダイモン氏は2014年に「これからはGoogleやFacebookと競合していくことになるだろう」と現在を予言するかのような発言をしています。

同社には全社員の2割を占める5万人のエンジニアが所属しており、今後もさらに世界中でエンジニア採用を募っていく方針です。

 

|バークレイズ

 

イギリスの大手金融グループであるバークレイズはFintechスタートアップ企業の育成支援プログラムを実施しており、これまで多くの企業が出資を受け、さまざまな顧客体験を提供するサービスが生まれています。これらのサービスはバークレイズグループのビジネスに統合され、投資だけに終わらないDX推進として話題になっています。

これからの金融業界に求められること…

国内外でさまざまなDX推進が進められている中、日本のDX推進はまだまだ遅れているのが現状です。レガシーシステムからの一刻も早い脱却が求められる中、DXに必要なIT人材の確保が難しいことがその要因の一つでしょう。

 

|DXに必要なIT人材の確保

 

三井住友銀行などの事例でも触れたとおり、国内のIT人材は争奪戦となっていますが、自由な働き方を求める傾向にあるIT人材は、コンプライアンスを重視する金融業界とは相性が悪いこともあり、各社は自社での育成も視野に入れ、DX教育を進めています。

 

とは言え、教育の効果が出るには時間がかかるため、即戦力の採用も行いたいところ。人材教育を進めつつも、日本よりもDX推進が進んでいる海外の優秀なエンジニアを活用すれば、DXの知見も得られるため、オフショア開発などを利用しつつDXを推進していくという方法も考えられます。

 

|クラウドシステムへの対応

 

金融業界はいち早くIT化を推進したものの、外部システムとの連携が難しいレガシーシステムを使い続けており、これがDX推進の妨げになっていると言われていることはすでに解説したとおりです。

膨大なシステム同士が連携できないため、自動処理の仕組みが作りにくくなっているため、システムや部門をまたぐ業務は著しく効率を下げることになります。

近年は「FSO」などセキュリティ性の高いクラウドサービスも登場しており、海外では多くの金融機関に利用されているのだとか。

こういったサービスを取り入れ、レガシーシステムから脱却し、仕組み自体を改革することが求められています。

 

|2022年秋に開始予定「ことら」

 

国内の金融業界におけるDX推進が海外に比べて遅れをとっていることは事実ですが、それでも金融DXは少しずつ進み始めています。

10万円以下の送金であれば手数料が無料に近くなる、個人間送金サービス「ことら」が2022年秋にスタート予定となっており、このサービスにはメガバンク3行とりそな銀行、埼玉りそな銀行の5行が出資しています。30ほどの地銀をはじめとした金融機関が参加予定ですが、出資した5行は自社アプリへの搭載は見送り、QRコード決済で対応するとしています。

出資した大手5行が自社アプリに搭載しないことや、資金移動業者の参加表明が進んでいないことなど、「ことら」の普及に暗雲が立ち込めている、との報道もなされており、「ことら」と今後の金融DXの先行きが気になるところです。

まとめ

DX推進自体が海外に比べて遅れている日本ですが、中でも金融業界のDX推進の遅れは深刻で、巨大なレガシーシステムと古い業務プロセスに加え、DX人材の不足もDX推進の妨げとなっています。大手金融機関は自社でのDX人材育成を進めており、一定の効果を生んでいる企業もあるようですが、人材育成にはどうしても時間がかかるもの。目の前のシステム改修や業務効率化には、どうしても即戦力が必要です。

 

海外の人材やオフショア開発を視野に入れることで、技術の面だけでなく、DX推進の知見という意味でも即戦力が得られ、さらなるコスト削減にもつながります。

 

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