公開日:2022/03/04 最終更新日:2023/08/17
デザイン思考とは?DX時代における企業の取り組み事例も紹介
オフショア開発. comに寄せられる数多くの問い合わせの中でも、「新規事業開発」の内容が近年急増しています。
SaaSビジネスの急成長、DXの推進、まだまだ続くコロナ禍による社会変革などの影響もあり、新規事業を創出していこうとする動きが加速しているようです。
新しいビジネスを創っていく上で注目されている考えが「デザイン思考」です。独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が発行している 「DX白書2021」においてもデザイン思考の重要性が指摘されています。
このテキストではデザイン思考の方法論を解説。デザイン思考とは何か、プロセスやメリットとデメリットだけでなく、使えるフレームワークやDXにおけるデザイン思考についても解説。実際の取り組み事例もご紹介します。
INDEX
1. デザイン思考とは?
2. デザイン思考のプロセス
3. デザイン思考のメリット・デメリット
4. デザイン思考で使えるフレームワーク
5. DXにおけるデザイン思考
6. デザイン思考の取り組み事例
7. まとめ
デザイン思考とは?
デザイン思考とは、デザイナーがデザインを行う際の思考プロセスを用いることでビジネスにおける課題を解決していくというもの。英語では「Design thinking(デザイン シンキング)」と呼ばれます。本質的な課題やニーズを発見し、問題を解決する思考プロセスです。
2000年代にビジネス書に取り上げられて一気に広まった「デザイン思考」ですが、デザインを思考方法として見るという考え方は1969年にアメリカの学者でノーベル経済学賞受賞者でもあるハーバート・サイモンの著書『システムの科学(The Sciences of the Artificial)』でも紹介されています。
「デザイン思考」という言葉を最初に使ったのはイギリスの機械工学者であるレナード・ブルース・アーチャーだと言われています。
|なぜデザイン思考が注目されているのか?
時代の変化に伴って、ビジネスも大きく変化し続けています。グローバル化が進み、産業構造も変化しており、これまでのやり方が通用しなくなった結果、課題の本質を発見することに向いているデザイン思考は現代のビジネスにおいてなくてはならない思考プロセスなのです。
独立行政法人情報処理推進機構(IPA)の 「DX白書2021」においてもデザイン思考の重要性が指摘されていることは冒頭で述べたとおりですが、このようにDX推進の観点からもデザイン思考は重要視されています。
デザイン思考の実際のプロセスについては後述しますが、混同されやすいアート思考についても簡単に解説します。
* 参考:「DX白書2021(独立行政法人情報処理推進機構)」
|アート思考との違い
デザイン思考はユーザーのニーズを前提とするのに対し、アート思考は、ニーズなどは考慮せず、ゼロから自由に発想するという思考法です。
デザイン思考のプロセス
デザイン思考がどういうものなのか、アート思考との違いがわかったところで、この項ではデザイン思考のプロセスについて理解を深めていきましょう。
デザイン思考のプロセスで最も有名なのが、スタンフォード大学のハッソ・プラットナー・デザイン研究所が提唱している「5つのステップ」です。「共感」「問題定義」「創造」「プロトタイプ」「テスト」のそれぞれのステップについて解説します。
|5つのステップ
- 共感
共感とは、課題においてユーザーを理解することです。ユーザーやクライアントがどのように行動し、どのようなニーズを持っているかを知らなければ、課題を解決することはできません。
ユーザーを観察し、インタビューなどによってニーズを引き出し、理解するのがこの「共感」というステップです。
- 問題定義
問題定義とは、正しい解決策へと向かうために正しい問題設定を行うことです。共感で得たことをもとに、課題における問題を明確に定義します。問題を特定することによって解決策を生み出すための着眼点が生まれます。
- 創造
解決策を生み出す段階へと進んでいきますが、創造のステップでは解決策を見つけるところまでは進みません。幅広くアイディアを生み出し、次の「プロトタイプ」の段階へと繋げていきます。このステップではアイディアを評価することはしません。あくまでもアイディアを創造する段階です。
- プロトタイプ
適切な解決策を見つけるために、創造の段階で出したアイディアをベースとした、プロダクトやサービスなどの試作品を作ります。ユーザーテストに使うのである程度の形は必要ですが、あくまでもプロトタイプなので完璧を目指す必要はありません。
プロトタイプの製作には愛着を持つことを避けるため、なるべく時間をかけないのが重要なポイントです。
- テスト
プロトタイプをユーザーテストに使用。フィードバックをもらうことでここまでのステップでは見えなかった課題を洗い出すのがこの「テスト」のステップです。5つのステップの最後ではありますが、これで終わりというわけではありません。
「テスト」のステップでは、試作品や解決策自体を改善すること、ユーザーへの「共感」のステップを再度行う機会、着眼点や仮説を見直すことなどが得られます。
この5つのステップを何度も繰り返し、プロセスを磨き上げていきます。
デザイン思考のメリット・デメリット
ユーザー目線で課題の解決方法を導き出すデザイン思考は非常に優れた思考プロセスではありますが、全ての思考法がそうであるように万能ではありません。デザイン思考にも向き不向きがあるため、この項ではデザイン思考のメリット・デメリットについて解説します。
|デザイン思考のメリット
ユーザーのニーズと向き合い、本質的な課題を解決する新しいアイディアを生み出すため、イノベーションが生まれやすくなるのが大きなメリットです。
プロトタイプやテストの繰り返しから、「とりあえずやってみる」「とりあえず作ってみる」という意識が定着しやすいので、提案も生まれやすくなります。
また、ユーザーへの共感や、アイディアへの評価をしないなど、多くの意見を受け入れるプロセスなので、多様な意見から新たな発見が生まれると、多様性を認める風潮が生まれ、社内によい影響をもたらします。それは結果的にチームをも強くしていくでしょう。
|デザイン思考のデメリット
アート思考との違いでも触れましたが、デザイン思考はゼロベースでアイディアを生み出すための思考法ではないので、ゼロから新規プロダクトを考えたい際や、「あったらいいな」を生み出すのには不向きな思考法です。
デザイン思考で使えるフレームワーク
この項では、デザイン思考に活用することでさらに効果がアップするフレームワークを紹介します。
|共感マップ
共感マップとはペルソナの視点から行動や感情、願望などを整理して図にまとめることで整理するフレームワークです。
整理する要素は主に6つあり、それぞれ「ペルソナが見るもの」「ペルソナが聞くこと」「ペルソナの考えや感じていること」「ペルソナの言動」「ペルソナのストレスや痛み」「ペルソナが欲しいものや得られるもの」となっています。この6つを書き出すことでペルソナが感じていることや欲しいものなど、ペルソナの視点を客観的に整理することができます。
客観的に整理するためのフレームワークなので、一人で作成せず複数名で作成することが推奨されています。また、異なるペルソナを混ぜないよう、1人のペルソナに対してひとつのマップを作成します。
デザイン思考の5つのステップにもある「共感」に役立つフレームワークですね。
|SWOT分析 / 事業環境マップ
SWOT分析とは自社の外部環境と内部環境をプラスとマイナス、両方の側面から分析する手法であり、事業環境マップとは自社に対して影響のある外部環境を分析するフレームワークのこと。どちらも自社の外部環境を分析し、戦略の策定に活かすものです。
SWOTとは「強み(Strength:内部環境のプラス要因)」「弱み(Weakness:内部環境のマイナス要因)」「機会(Opportunity:外部環境のプラス要因)」「脅威(Threat:外部環境のマイナス要因)」の頭文字をとったものであり、この4つの要素を分析していくものです。
事業環境マップは、こちらも4つの要素である「市場」「産業」「トレンド」「マクロ経済」を分析しますが、これらは全て外部環境の要因です。
デザイン思考においては「問題定義」や「創造」に役立つフレームワークと言えるでしょう。
|ビジネスモデルキャンバス
ビジネスモデルキャンバスとはビジネスモデルを可視化する手法であり、新規ビジネスに必要な9つの要素「CS(Customer Segments:顧客セグメント)」「VP(Value Propositions:価値の提案)」「CH(Channels:チャネル)」「CR(Customer Relationships:顧客との関係性)」「RS(Revenue Streams:収益の流れ)」「KR(Key Resources:キーとなるリソース)」「KA(Key Activities:キーとなる主要な活動)」「KP(Key Partners:キーとなるパートナー)」「CS(Cost Structure:コスト構造)」を1枚のシートに書き出します。
可視化することで、市場に対する優位性だけでなく弱みも把握することができます。
こちらもデザイン思考の「問題定義」や「創造」に役立ちそうですね。
|カスタマージャーニー
ユーザーやクライアントが購買へと至るまでの行動の流れが「カスタマージャーニー」です。このカスタマージャーニーを時系列ごとの行動や心理について一覧化したものを「カスタマージャーニーマップ」や「ユーザーエクスペリエンスマップ」と呼びます。
主にデザイン思考の「共感」に使えるフレームワークです。
DXにおけるデザイン思考
|DX推進におけるデザイン思考の重要性
「DX白書2021 第2部:DX戦略の策定と推進」には、下記のように書かれています。
“DXの推進においては、企業が市場に対して提案する価値を見出すためのデザイン思考などの方法論と、その価値提案を現実のシステムへ実装する技術者の役割が重要である。”
また、同じく「DX白書2021」の「第4部:DXを支える手法と技術」にもデザイン思考について多くの記述があります。DX推進にとってデザイン思考はなくてはならない手法なのです。
また、経済産業省の「DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~」では、DX人材としてベンダー企業に求められる人材として、「ユーザ起点でデザイン思考を活用し、UX(ユーザエクスペリエンス)を設計し、要求としてまとめあげる人材」との記載があります。
* 参考:「DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~」
|デザイン思考と親和性の高い開発手法
「DX白書2021」の中でデザイン思考と相性のよい開発手法として挙げられているのが「アジャイル開発」や「DevOps」です。
- アジャイル開発
アジャイル開発とは、従来の主流だったウォーターフォール型の開発に代わり、今や世界的に主流となりつつある開発コンセプトです。開発する機能を細かく分類し、機能ごとに短い開発期間を繰り返すことで一つ一つの機能を開発していくというもので、外部環境の変化に柔軟かつ素早く反応できるアジャイル開発は、プロトタイプとテストを繰り返すデザイン思考と親和性の高い開発手法です。
アジャイル開発については下記の記事も参考になります。
* 参考記事:「アジャイル開発とは?|適したプロジェクトと契約形態も解説」
- DevOps
DevOpsとは、開発の速度を上げつつ、安定性や安全性を担保することのできる手段であり、これまでは分断されていた「Dev:開発」と「Ops:運用」それぞれの担当者が開発におけるゴールを共有し、テストや構成管理などをできる限り自動化します。これによってスピードと品質、安全性を担保したうえで、迅速な開発を目指すことができるのです。
デザイン思考の取り組み事例
|富士通
富士通は2020年10月から開始した全社DXプロジェクトである「Fujitsu Transformation(通称:フジトラ)」に全面的にデザイン思考を採用しています。
DXを単なるデジタル化と捉えず、先行きが不透明な現代において、時代の流れに合わせた新しい企業に生まれ変わるのが狙いで、国内・国外のグループ企業を含めた13万人の全社員にデジタル思考を浸透させるべく、デザイナーが多くのプロジェクトに参加し、デザイン思考を現場に根付かせていくという試みです。
|Apple
iPodの開発がデザイン思考で進められたのは有名な話です。それまではウォークマンなどのポータブルプレイヤーで音楽を聴くのが一般的でしたが、Appleはデザイン思考によってユーザーがPCを使ってCDからポータブルプレイヤーに音楽を移す手間を面倒に感じていることを発見。「持っているすべての音楽をポケットに入れて持ち運べる」というコンセプトが生まれ、自動同期システムのオートシンクなどのアイディアが生まれました。
iPodの開発期間はなんと11ヶ月。多くのデザイナーや人間工学の専門家などが関わったとは言え、短期で斬新な新製品を生み出せたのは、デザイン思考の賜物だったと言えるでしょう。
|The U.S. Veteran Affairs
アメリカの退役軍人のためのサポート機関である「The U.S. Veteran Affairs」では、退役軍人のメンタルヘルスケアサービスの改善にデザイン思考が使われました。
ユーザーへのインタビューによって、これまで競合がいないためにサービスの使いやすさがおろそかにされており、サービスを受けるまでのプロセスが非常に複雑なものとなって、それがサービスを受けることを諦めてしまうことにつながっていることがわかったのだとか。
まとめ
デザイン思考はAppleやGoogleなども早くから経営に取り入れていた思考プロセスであり、近年は日本企業も取り入れるところが増えてきました。DX推進にも役立つ思考法なので、試したことのない企業は一度試してみてはいかがでしょうか。
以前試したけどうまくいかなかった、という場合はやり方が間違っていたり、そもそもデザイン思考が得意でない分野に活用しようとしたりしていたのかもしれません。改めてデザイン思考について学び直すことでよい刺激が生まれるかも?
「オフショア開発. com」では、専門コンシェルジュに海外へのアウトソースについて無料で相談することができます。今回解説したデザイン思考を得意とする人材は日本よりもむしろ海外に多いため、DX推進にデザイン思考を活かしたいというご要望など、さまざまなお悩みやご質問・ご相談にお応えいたします。
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この記事を書いた人
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